12.2.15

勝者は善か



「殺人は許されない、犯した者は罰せられる。鼓笛をならして大勢を殺す場合を除いて。」
ヴォルテール


フランスの哲学者で啓蒙主義を代表する人物、ヴォルテールの言葉である。

最近はもっぱら本ばかり読んでいる私だが、先日久しぶりに映画でも見ようと思い、ふらりTSUTAYAに立ち寄った。
お目当ては黒沢明監督の『七人の侍』であったが、ついでに何かもう一本、と目に入ってきた『ザ・アクト・オブ・キリング』という作品も借りてきた。

冒頭で紹介した文言が字幕で映し出され静かに始まるこの作品は、インドネシアで起きた9月30日事件において大量虐殺を行った「プレマン」に、自身が行った殺人行為を自由に再現した映画を自分たち自身で作成してくれと依頼、その制作の様子をインタビューを交え、撮影した映画である。

1965年スハルトのクーデターによりスカルノが失脚、その後共産主義者一掃と称し、西側諸国の支援のもとに100万人の“共産主義者”が殺された。
その殺人行為を実際に行ったのは「プレマン」と呼ばれるやくざ、民兵集団であった。

当時のことをよく知る人物が日本にいる。ほかでもないスカルノ元大統領の第三夫人である、デヴィ夫人ことデヴィ・スカルノさんである。

調べてみると、2012年にこの映画の特別試写会にて行われたトークショーで、デヴィ夫人が当時のこと、事件について語っている全文が掲載されていた。

デヴィ夫人によると、
“スカルノ大統領は中立国として、アジアやアフリカ、ラテンアメリカの勢力を結集して第三勢力というものをつくろうと頑張っていた為に、ホワイトハウスから大変睨まれましておりました。太平洋にある国々でアメリカの基地を拒絶したのはスカルノ大統領だけです。それらのことがありまして、ペンタゴン(アメリカの国防総省)からスカルノ大統領は憎まれておりました。アメリカを敵に回すということはどういうことかというのは、皆さま私が説明しなくてもお分かりになっていただけるかと思います。”

当時、世界はアメリカvsロシアという構図で冷戦時代の真っただ中。
スカルノ元大統領自身が共産主義者ではなかったとしても、インドネシア共産党を支持基盤に持っている人物が勢力拡大をもくろんでいれば、自称“世界の警察”は黙っていたはずがない。
さらに、

“その当時の日本はスハルト将軍を支援しています。佐藤(栄作)首相の時代だったのですが、佐藤首相はご自分のポケットマネーを600万円、その当時の斉藤鎮男大使に渡して、その暴徒たち、殺戮を繰り返していた人に対して資金を与えているんですね。そういう方が後にノーベル平和賞を受けた、ということに、私は大変な憤慨をしております。”


これを読んで思い浮かぶのは、今現在もシリアに空爆をしかけ、テロと無関係の市民をも殺している大国アメリカの大統領、バラク・オバマ氏である。
彼もまた、2009年にノーベル平和賞を受賞している。
世界は勝者のためのものなのか。

作中で一人の殺人犯に、インタビュアーが「あなたのしたことはジュネーブ条約で戦争犯罪としてある。あなたが犯したことは重大な犯罪ですよ。」と尋ねるシーンがある。
すると彼は、「ジュネーブ条約など従わない。戦争犯罪は勝者が勝手に決めたこと、国際法も勝者が勝手に設けたことだ。そして、俺は勝者である。だから俺の解釈に従う。」と。

勝者が全て正しい。勝者が善である。
これは絶対に違う。有無を言わせず力でねじ伏せるなどということがあってはならない。

そしてそうした制圧方法をとる超大国アメリカに、脅されるがままより積極的に“アメリカの敵”を圧する戦いに参加する方向に、日本は舵をきってよいのか。

鼓笛を鳴らす立場には、なってはならない。

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