31.12.17

私の本棚 ~2017年出会った本~


始発電車で家路につく朝の、身を切るような寒さ、あれはいったい何なのでしょうか。
そりゃあ、一日でもっとも気温の下がる時間帯だからだよ、と言われればそれまでかもしれませんが、早起きして外へ出たときの感じ方とは、やっぱり違います。気持ちの問題ですかね。

天気予報では、「体感温度は...」というものをよく発表しています。あれを発表する場合、「実際の気温」は、ほとんど意味をなさないんじゃないかしらん。気温が5℃であっても、つまりは、体感温度が1℃であれば、多くの人にとって(全員にとってではありませんが)、それは1℃なのです。

もう少し踏み込めば、「今日は一段と冷えるね。」「そうだねぇ。1℃だね、これは。」「いや、マイナス打ってるだろう。」「お待たせしましたどうも。あー、汗かいちゃった。」なんて会話はあるわけでして、この気温というものは、その人の感じ方、受け取り方次第なんですね。



本というものも、これは読み手の感じ方、受け取り方次第といったところがあります。

今年初めに本をすっかり売ってしまって、あの本は今年読んだのだったかな、などと思い出せるくらいであればいい方で、読んだことすら覚えていないものも何冊かある始末。

いずれにせよ、数こそ多くなかったものの、今年も楽しい読書生活を送ることができました。私の心が暖まった、今年の本5選です。


一冊目『世界情勢地図』



出典:Amazon.com


「地政学」という学問があります。あんまり大雑把な説明ですが、地理的条件をもとに政治を考える、といった学問です。この長方形の書籍は、様々なデータや解釈を地図上に落とし込み、世界の全体像を見てみよう、となげかけてくれます。

私たち日本人が学校で眺める世界地図の、そのほとんどが日本を中心として描かれたものです。私たちの世界の見かたに、大きな影響を及ぼしているそれは、つまり私たちから見た世界です。それと同じように、各国、各地域から見た世界という解釈が存在します。この本はそれを理解するための、大きな手助けをしてくれます。

いろいろな世界地図が載っているので、眺めているだけでも楽しい本です。


二冊目『代表的日本人』



出典:Amazon.com


来年の大河ドラマ「西郷どん」の主人公、西郷隆盛も登場している、内村鑑三の著作です。

国際感覚に優れ、外の世界に目を向けた人物だからこそ見えてきた、どのような日本人として生きるべきなのか、その形を、5傑の姿を通して探っています。この本は、もともとは、日本人とは何ぞや、を海外へ発信することが目的だったので、英語で書かれた本でした。

アメリカの元大統領ジョン・F・ケネディも、この本を読み、米沢藩を復興し「為せば成る...」の名言で知られる、上杉鷹山を尊敬するようになったそうですから、内村鑑三の仕事の偉大さは計り知れません。

情熱を感じさせる本であり、国際化が進む現代だからこそ、知っておきたい日本人のルーツのひとつを示してくれる本です。


三冊目『茶の本』



出典:amazon.com


こちらも、『代表的日本人』と同じように、日本の文化を海外に紹介するために、英語で書かれた一冊です。

作者の岡倉天心(岡倉覚三)は、茶道の精神から日本の文化を、主に「美学」について解釈し、その精神性を説きました。

本を読む時は、多くの場合そうなのですが、特にこの本は、登場する中国南部の文化について、道教について、禅について、数寄屋造り(建築)について、花について、何か学んでみたいと思わされます。

さて、自分は茶気がある人間だろうか、反対に茶気がありすぎやしないだろうか。そんなことを考え、いつもより丁寧にお茶を淹れ、味わいながら読んだ本です。


四冊目『自由学校』



出典:amazon.com


昨年から、もうすっかり虜になってしまった獅子文六。その著書から『自由学校』を選出します。

東京を舞台に「自由」という価値観を受け取った人物たちによって巻き起こされる、お洒落で、たまに間が抜けていて、それでいて風刺のきいた小説です。この小説には、戦前から戦後を生きた文六自身の体験が、多分に落とし込まれていることが想像できます。

この人の小説は、どれを読んでも本当にお洒落なのです。文六自身がパリで暮らしていた経験があり、その時のことを書き連ねたエッセイ(『舶来雑貨店』)も、飄々とした余裕が漂い、それでいて嫌味がない。

特に登場人物のユーモラスな描写は、古今亭志ん生が上流階級の生まれだったのなら、こんな落語を話すのじゃないかと思わせる、チャーミングであり、毒はそのまま毒である、読んでいてそれはまあ愉快なものです。


五冊目『STILLNESS AND SPEED』



出典:amazon.com


私のフットボール人生はこの人物から始まりました。1998年ワールドカップ準々決勝、オランダvsアルゼンチンの一戦で見せた決勝ゴール。小学生ながらに、こんなすごい世界があるのか、と度肝を抜かれたことを覚えています。

私のアイドルであり、個人的GOAT、デニス・ベルカンプの自伝『STILLNESS AND SPEED』。幼少期からの彼のフットボール人生を余すところなく、ベルカンプ自身と、その周囲にいた人々が語った一冊です。

そのプレーとファッション、言動からも伝わってくる完璧主義や、クールで洗練されたイメージを覆すようなジョーク好きな一面は、数が少なくなってきている、お金を払う価値のある選手のひとりであったベルカンプを、より多くの側面から理解する助けになりました。

フットボールを再定義した、それが大げさだったとしても、少なくともプレミアリーグのあり方を変えた人物であるデニス・ベルカンプ。そんな天才のプレーを見直したくなる一冊です。

英語の本なので、日本で手に入るのかどうかはわかりません。



小雪がちらつく大晦日。私の体感温度はマイナス3℃かな。とにかく寒いのですから無理に外へ出る必要もありません。暖かい室内で、本でも読みながら新たな年を迎えるのもいいでしょう。

かく言う私はそうするつもりで、今日も書店で本を2冊買ったのでした。



それでは皆様、よいお年を。